音楽評論家 関根礼子
「ソプラノ歌手チョン・ウォルソン(田月仙)制作・主演のオペラ≪ザ・ラストクィーン≫を昨年の初演に続き2度目の観劇。大正時代に朝鮮の皇太子に嫁いだ日本人女性の生涯を描いた内容で、その人生には、観るたびに大きな衝撃を受ける。政府間では解決困難なことも多い日韓関係だが、個人レベルや民間同士なら友好関係も築ける。このオペラはその一石になるだろう。」
音楽評論家 三善清達 (「音楽の友」より)
企画、主演は在日コリアン2世のソプラノ田月仙(チョン・ウォルソン)で、10年の構想、取材をかけた彼女の熱意によって生まれた作品だ。主演の田月仙は衣装を替えながら、15歳から87歳までを演じたが、特に朝鮮王朝の大礼服を纏った姿は、歌唱と共に美しく見事だった。お相手の皇太子を歌手でなく、その化身として相沢康平がバレエで演じたのは賢明。歴史に埋もれた日韓の愛を知る意味でも、再演を望みたい。
音楽評論家 藤村貴彦 (MUSIC PEN CLUB より
今回のオペラの初演は、田月仙(チョン・ウォルソン)の情熱と意欲がなければ実現しなかったであろう。彼女が企画・台本・主演(李方子役)・音楽監督なのである。田月仙は2015年外務大臣表彰を受賞し、デビュー当時から日本に韓国の歌を紹介するなど、日韓文化交流の中心人物の一人として活躍するソプラノ歌手。芝居も良く、所作の決まりなど風格のあるものであった。バレエダンサー(相沢康平)の動きが伴うと、よりオペラの内容が理解でき、見ていて美しい舞台になっていた。田月仙の表現には、暗示や思わせぶりがなく、ごく自然に歌い上げ、豊かな情感の陰影、情熱の高揚を蔵しており、特に第8景の〈二つの祖国〉「私の大切な 二つの祖国 私が生まれ育った国 私に愛を授けた国」では、彼女は李方子妃との考え方と同じで、はっきりとした主張で歌い通したのではないだろうか。日本と韓国はかつて「最も近くて遠い国」と言われてきた。今だに両国の関係はぎくしゃくとしているのが現状である。朝鮮の土となった日本人、李方子妃のことはオペラで初めて知った。今回のオペラ公演はその意味でも非常に有意義な企画であった。両国の歴史文化を知ることも日韓の交流には大切であり、それなくしては真の友好はないのである。
音楽ジャーナリスト 池田卓夫
ソプラノ歌手の田月仙(チョン・ウォルソン)は日本列島と朝鮮半島、日本海を隔てた2つの大地を祖国として長く、歌唱芸術を通じた架け橋の役目を果たしてきた。半島では大韓民国のみならず、さらに同じ民族の住む北側へも出かけ、激しいといえるほどに強く、心揺さぶる歌声で長く、人々と人々を結びつける。・・・・・創作オペラ「ザ・ラストクィーン」は李方子妃、チョン・ウォルソンそれぞれの人生が放物線を描きつつ、最後は大きな感動の大団円に至る。夫の李垠殿下役を歌手ではなくダンサーに委ね、登場人物も最小限に抑え、ナレーションでつなぐ構成は、伝統的なグランドオペラというよりもモノオペラやシアターピースに近い。複数の表現語法を同時に走らせていく点で、「2つの祖国」の間に揺れる人物像の再現にはふさわしいものだった。もちろんウォルソンは全身全霊こめ、自身の生涯とキャリアの総決算にふさわしい迫真のパフォーマンス。再演では一段と練れた舞台が、強い説得力を放つにちがいない。
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